言葉というもの。

言葉の力を思い知らされた出来事がある。
当時私は日商簿記2級を教えていて、彼女は受講生の一人だった。
正直、成績は芳しくない。
模擬試験を行っても30点を越えれば良い方だった。
そんなある日、本人から直接「今からでも間に合うでしょうか?」と尋ねられたことがある。
既に本試験まで1週間を切っており、今から頑張った所で結果が出るとは思えない。
それでも無責任な私は「大丈夫、今から頑張れば何とかなりますよ。」とにこやかに答えてしまった。
その瞬間、彼女の瞳が輝いたのを私は見逃さなかった。
大丈夫、今回が無理でも次には繋がるから。
心の中でそう呟いていた。

それからひと月ほどが過ぎ、私の元に思いがけない連絡があった。
件の彼女が合格したというのだ。
それも80点という高得点で。
試験そのものが易しかったことは他の受講生から聞いてはいたが、それでも直前期の追い込みだけで合格出来るレベルではない。
私の無責任な言葉を(良い意味で)真に受け、死にもの狂いで復習を行った結果が合格に結びついたのだろう。
その後本人と直接話す機会があったが、弾むような声で「ありがとうございました。」と言われたことは未だに忘れられない。
と同時に、何気に発した言葉が誰かを傷つけたり、逆に力になったりする可能性を思い知らされた出来事でもある。

悲しいかな、一度発した言葉は取り戻すことは出来ない。
例え意に反する受け止め方をされたとしても、全ては自分の責任なのだ。
そんなつもりはなかったのに…とついつい言い訳したくなる時もあるが、縁がなかったのだと自身に言い聞かせ、そのまま立ち去ることにしている。