転寝

私が利用するA駅は始発駅である。
殆どの地下鉄は折り返し運転となるが、駅には車庫も併設されているので、時には日中でも車庫に入ることがある。
さて、A駅から出発する地下鉄の目的地は大きく3つに分かれる。
というのも、地下鉄の終着駅はB駅のみなのだが、相互乗り入れの関係上、C駅方面に行く地下鉄とD駅方面に行く地下鉄も存在するのだ。
これらを踏まえた上で、先日見かけた男性の話など。
その人を乗せた地下鉄は定刻通りA駅に到着し、乗客の大半はA駅で下車した。
しかし、その男性はすっかり眠っていたらしく、一向に降りようとしない。
A駅で待つ人々は男性には目もくれず、そのまま車内に乗り込んだ。
車内が空いていたせいか、誰も男性の横には座らない。
やがて地下鉄は発車し、私は目的駅であるF駅で下車した。
その時、視線の先にA駅で見かけた男性を発見した。
最初に彼を見かけてから、既に10分以上が経過している。
相変わらずぐっすり眠っている様子で、誰一人声をかけない。
この調子で行けば、終着駅であるC駅(私が乗った地下鉄はC駅行だった)まで眠ったままだろう。
C駅から先のことは生憎わからないが、恐らく折り返しでA駅に戻ってくるに違いない。
せめて男性の目的地で目が覚めますように。
そんな思いを抱えたまま、私は地下鉄を降りた。